教育・研究

経済学部教員コラム vol.16

2013.10.14 共通科目教室 原田 祐貨

「Pay It Forward-恩返しの必要はありません。その善意をほかの人に与えてください-」

わたしの好きな映画のひとつ、『ペイ・フォワード』(原題Pay It Forward)を紹介します。

 

11歳の少年が社会科の授業で「世界を変える方法を考え、実行しなさい」という宿題を与えられました。少年の暮らす地域は貧しく、麻薬中毒者、ホームレス、犯罪者も多いところです。校門でナイフや拳銃などの凶器を没収される小学生までいます。こんなに荒んだ社会を変える方法なんてあるのだろうか。少年は知恵をしぼり、ついにひとつの妙案を考えつきます。自分の身の回りで困っている人を三人選び、その人たちにとって善い行いをします。善意を受けるにはひとつだけ条件があります。それは、さらに三人を選び、善意を次に渡すこと。少年はさっそくこれを実行にうつします。

 

 

少年が最初に助けたのは、麻薬づけの生活から立ち直りたい一文無しの青年でした。ガレージに一晩泊めてやり、食事を与えました。青年はドラッグ仲間のところには戻らないと約束しますが、薬の誘惑に勝てずふたたび元の生活に戻ってしまいます。少年の善意は無為に終わります。

 

少年が次に選んだのはホームレスとなっている母方の祖母でした。現在の生活を恥じて娘と顔をあわせられません。そこで少年は祖母を自宅に招きます。ためらいながら訪ねてきた祖母に母は動揺し、どのように言葉を交わせばよいかわかりません。祖母も素直に話せません。やがて口論となり、ふたりの関係修復は失敗しました。

 

少年が最後に望みをたくしたのは、この宿題を出した社会科の先生と母親でした。先生の顔にはひどいやけどの傷があり、そのせいで好意を抱いた女性に対して臆病になっています。一方、母親は暴力亭主が刑期を終えて戻ってくることを恐れアルコール依存症に陥っています。先生と母親が互いに好感を持っていることを察した少年は、ふたりの間をとりもち、三人は疑似親子として幸せなひとときを過ごします。しかし、この幸せも実の父親の帰宅で終わりを告げます。

 

こうして少年がまいた三つの善意の種子は、少年の目にはどれも実を結ばなかったように映ります。ところがある日、記者が少年を訪ねてきて、善意を先へ送るというルールは少年の知らないところで人から人へと脈々と伝わり、多くの人々を救っていたことを知ります。

 

記者のインタビューを受けた後、いじめっ子からクラスメートを救おうとして少年はナイフで刺されて亡くなります。報道で訃報に接した人々がろうそくを手にして少年の家の周りに集まります。闇に浮かぶ無数の灯は少年が始めた三つの善意の先送りがどれほど多くの人を救ったかを示しています。一つひとつは小さな光でも多くそろうことで暗い世界を照らしています。

 

 

だれかにお世話になると、「ありがとう。この次、一杯おごるよ」と言うことがあります。しかし、こういうgive & takeは世の中を幸福にするのでしょうか。少なくとも、この映画のエンディングのように善意の灯が無数に広がりつづけることはなさそうです。それどころか、期待した恩返しがないといって、相手を恨むかもしれません。一見、損をするようでも、善意を施したら恩返しを求めず、他者へ善意を先送りにするように求めたほうが、自分の心も穏やかだし、周りも幸せになります。巡り巡って自分や家族に幸福が返ってくるかもしれません。

 

「だから私の指導を受けてありがたいと思ったことが一つでもあったら、三人選んで、あなたの真心をわけてあげてください。そうしたら世界をもっと幸せに満ちた場所になるかもしれないから。」

 

これが今年の三月に、はじめてのゼミ生を社会に送り出したときに贈った言葉です。卒業生がこれを実践してくれたかどうかはわかりませんが、静かに人の話を聴くことの苦手な彼らがじっと耳を傾けていたところをみると、私の言葉を胸に受け止めてくれたようです。

 

(共通科目教室 原田 祐貨)

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