教育・研究

経済学部教員コラム vol.19

2013.11.05 経営学科 高橋 公夫

「キャリア教育と経営学」

近年は、どこの大学でもキャリア教育が盛んです。本学でも、全学的に実施される1年生への「キャリアデザイン入門」から、経済学部での実際の経営者を招いての「実践ビジネスキャリア」、企業等での職場体験である「インターンシップ」、また経営学科には各種「現代ビジネス講座」・「資格取得講座」、さらには自由科目でSPI試験対策である「キャリア能力」講座などがあります。

 

 

キャリア教育とは、単なる就活対策ではなく、企業をはじめとするいずれかの経営体における学生の長い職業人生に備えるものであるとすれば、経営学はその使命を本来的に担いうるはずです。いわば経営学教育の一般化がキャリア教育であるといってもいいのです。しかしながら、キャリア教育に経営学が特に期待されたというわけではありませんし、経営学がにわかに人気学科になったという話も聞きません。今こそ経営学が最も社会に貢献できる時であるにもかかわらず、世間ではそのように見ていませんし、残念ながら経営学も十分それに答えているとは言えません。

 

そもそもキャリア教育が求められるのは、いうまでもなく大卒の就職率が低下して、失業や不安定就労も増えてきたからです。思い出してください。バブル経済の時代には、内定者が他企業に流れないようにさまざまな足止め策が講じられていたことを。それが今では、アベノミックスの一環として古い産業から新しい成長産業へ労働者をシフトするために、「雇用特区」において解雇規制を撤廃し、解雇自由の原則を試みようとしています。さすがに、こうした本音は次第にカモフラージュされて「限定正社員」の議論が盛んですが、「雇用の流動化・多様化」は社会正義のようにまでなってきました。たとえば、リーマンショック以降に話題になったのが、新卒正社員を苛酷労働といびりで鬱へと追い込み、自主退社させる使い捨てならぬ「使い潰し」をする「ブラック企業」ですが、その一因はそれまでのいわゆる終身雇用と正社員にこだわる日本的雇用の考え方があるからであるとし、雇用の流動化・多様化が一般化すれば、ブラック企業はなくなるであろうという議論さえあります。

 

 

しかしそうすると、これまでの長期安定雇用を前提に社員教育をしてきた日本的システムは崩壊し、その分大学をはじめとする外部機関がその機能を担うことになり、キャリア教育がいよいよ求められることになります。しかし大学におけるキャリア教育の目的は、会社における社員教育のようにわが社にとって有能で使いやすい人材の育成ではありません。あくまでも人格教育であり、リベラル・アーツつまり教養ある社会人の養成であります。したがって、大学における経営学教育は経営に迎合するのではなく、経営に対して教養ある人格を対峙させることであって、実際の経営実践に批判的に対応できる判断力を持った人材を輩出していくことでありましょう。近年の経営不祥事、たとえばみずほ銀行の反社会的勢力への融資の黙認、ユニクロの店長サービス残業の地裁認定、オリンパスの損失隠しと内部告発者いびり、等々と並べてきて、何故にかかる有名大企業において、それらを批判し思いとどまらせるような見識ある社員がいなかったのかと思います。大学における経営学教育・キャリア教育は、自ずとこうした反社会的、反人格的企業の所業に疑問を感じ、正そうとするような人間の養成でありましょう。企業にとっても、それが好ましいのは言うまでもありません。自ら立派な社是・社訓や社会的責任理念などを掲げているのですから。そして、何故にテレビドラマ「半沢直樹」がかくも高い視聴率を獲得しているのでしょうか。企業における理不尽を「水戸黄門」が悪代官を暴くように戯画的に、そして痛快に告発しているからでしょう。

 

 

さて、経営学がキャリア教育の中核を担いうるものであるとすると、経営学教育の実際は十分とは言えません。大学で教える経営学の理念や理論が、学生のその後のキャリアにおいて単に役に立つかどうかということではなく、彼のキャリア形成において太い指針となりうるかどうかが問題なのです。経営学を教える者としてそのような効果を期待したいのですが、実際には誠に非力であるというほかはありません。せめて、学生たちのよりよいキャリア形成のために、できれば「出世」のために、経営を担い、あるいはそれに対峙しうる知識と経験を教えるとともに、厳しい今日の職業人生をひるまず生き抜くようにひそかに激励してやるばかりです。

 

(経営学科 高橋 公夫)

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