Column

経済学部教員コラム vol.15

経済学部教員コラム vol.15

真保 智行

「バルサの真似をすると失敗する?」

私が去年まで住んでいた地域のサッカークラブの監督がちょっと前に解任されました。その監督は攻撃的なチームを作り、得点は増えたのですが、それ以上に失点が増えてしまい、2年連続でチームは低迷してしまったのです。

こんなケースはサッカー界では最近よくあるそうで、どうもその背景にはスペインのバルセロナの成功があるようです。すなわち、バルサの真似をすると失敗するというわけです。ちょっと、この現象をサッカー素人の経営学者的に考えてみようと思います。

バルサの戦術を一言で言えば、ショート・パス中心のポゼッション重視でしょう。ボールの所有率が70%以上となることもよくあります。すなわち、ボールを取られないので、攻撃の時間が長くなり、守備の時間が短くなるというわけです。

では、どうすれば、所有率を高められるでしょうか? それはキープ力やパス能力が高い、テクニカルな選手が必要となるでしょう。そして、テクニカルな選手が多くなると、1対1の場面でも有利になりやすくなります。

では、どうすれば、1対1の場面をより多く作れるでしょうか? その答えはグランドを広く使うというものです。システムで表現すれば、4-3-3とか3-4-3という配置です。すなわち、FWの選手を3人並べることで、配置上はグランドを広く使えるようになります。

では、このシステムを機能させるにはどんな選手が必要でしょうか? FWの選手を3人並べるわけですから、その両サイドのウィングというポジションが重要になります。さらに、1対1の場面が増えるので、守備でもテクニカルな選手が必要となります。

ただし、ここで問題があります。最近のサッカー界では1トップが主流なので、ウィングの役割をこなせる選手は非常に少ないです。また、テクニカルな守備の選手も同様です。そこで、バルサは下部組織でそういった選手を育成しています。ペドロ、イニエスタ、シャビ、ブスケッツ、ピケ、バルデスなどなど。もちろんメッシも。

さらに、こういったバルサの戦術は一般的かと言えば、そうではありません。すなわち、理解するには時間がかかるのです。だから、バルサは下部組織から同じ戦術とシステムを採用しています。

このようにバルサは基本戦術、システム、選手、組織が一貫しているのです。なので、監督によって大きく戦術が変わるということはありません。ただし、バルサもこの仕組みを機能させるために、10年以上の時間がかかっています。

ここで話を元に戻しましょう。あるクラブにバルサのような攻撃が好きな監督が入ってきて、その真似をしようとしたとします。成功するでしょうか?これは企業の経営にも通じる話だと思います。

(経営学科 真保 智行)