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経済学部教員コラム vol.6

経済学部教員コラム vol.6

布能 英一郎

「研究について」

わたしは数理統計学、情報理論を専門とし、「 Pooling incomplete sample の下での統計的推論」を主要研究テーマの一つとしています。これについて、わかりやすい例で説明します。

ある商品の販売をめぐって、欧米で何社かがシェア争いを演じているとします。これを解析し、統計的推論を行うには、多項分布モデルを用いればよいのです。(注:多項分布とは、高校数学Aで学んだ二項分布を、多変量に拡張した確率分布。) さて、欧米外のA国にはまだこの商品は販売されておらず、A国への販売の際、A国政府によって参入会社数が制限されたと仮定します。このとき、A国に参入できた会社間のシェアは、欧米でのシェアに比例すると考えるのが自然です。たとえば、欧米では a社 40%, b社 24%, c社 16%, d社 8%, e社 7%, f社 5%, のシェアで、A国政府が a, b, cの3社にしか参入を認めないとしたら、 a, b, c社の欧米でのシェアの比 40対24対16がA国でも保たれ、 a社 50%, b社 30%, c社 20%のシェアになるであろうと考えられます。このような考え方でシェアを仮定し、欧米とA国での両方のデータを使って統計的推論を行うものです。

そして、pooling incomplete sample の下での統計的推論の研究を推めたところ、統計的推論(統計的推測や検定)に用いる式が、多項分布モデルの場合の式に「 pooling incomplete sample という複雑さから生じる系数」を掛け合わせたものになっていることがわかりました。つまり、多項分布モデルの場合を拡張した結果となっています。これは、pooling incomplete sampleが多項分布モデルの拡張版であることから、ある程度予想される結果であり、また自然な拡張と思われます。

ところが最近、情報理論の立場で研究してみたところ、多項分布モデルのときに成立する性質が pooling incomplete sample の下では必ずしも成り立たないことがわかりました。この原因は何なのでしょうか? 情報理論の立場から見ると、pooling incomplete sample は多項分布モデルの自然な拡張ではなくて異質なものなのでしょうか?こうした疑問に答えるべく、悪戦苦闘しながら研究を行っています。

(経済学科 布能英一郎)