Column

経済学部教員コラム vol.86

経済学部教員コラム vol.86

山本 勝造

野球選手の二刀流を経済学で考える

私の専門分野は国際経済学です。
国際経済学で最初に学ぶのは、リカードの比較優位の考え方です。
この考え方は、ある国がすべての産業について他国よりも技術的に優位であったとしても、自国が相対的に見て最も優位性を持つ産業に資源を集中させ、他国と貿易をすることで、世界全体として効率的な資源配分が達成されるというものです。

比較優位の考え方の応用として、よく野球の例が使われます。
日本の野球選手だと、日米通算3000安打を達成したイチロー選手は高校時代に投手経験があります。
松坂大輔選手や桑田真澄選手は投手としても一流でしたが、高校時代には打者としても結果を出していました。
世界のホームラン王として知られる王貞治選手は、高校野球で甲子園の優勝投手です。
リカードの比較優位の考え方に準えると、彼らは打者としても投手としても一流であったかもしれないが、どちらか一方に専念したことでプロ野球の世界で大成できたし、チームとしても結果を残せたということになります。

と、ここで野球好きな人なら「では大谷翔平選手の二刀流はどうなんだ!?」とツッコまれるかもしれません。
リカードの比較優位の考え方だと、
「大谷選手が一方に専念すれば(投手なら最多勝、打者ならホームラン王などの)タイトルが取れるかもしれない」
あるいは
「大谷選手の代わりの選手に一方のポジションを任せた方が、チーム全体のパフォーマンスは上がるかもしれない」
といった結論になります。

今月12日の巨人対阪神戦で、阪神の村上頌樹投手が完全試合の可能性があったにも関わらず7回で降板となりました。
ニュースや解説記事を見ると「チームの勝利を優先した采配」と監督の投手交代を支持する声がある一方で、ファンからは「観客は完全試合を見たかったはずだ」という否定的な意見も多くあったようです。
人生は時に、(特に若いときには)夢や可能性を追いかけてチャレンジするのも大事かもしれません。