経済学部教員コラム vol.38
「我が国が目指すコンパクトシティのかたち」
我が国が直面する少子高齢化、人口減少、環境資源問題、財政問題、公共交通の衰退に対処するためには、多くの市町村は多極ネットワーク型コンパクトシティに移行せざるを得ない。
多極ネットワーク型コンパクトシティとは、医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地しているまちのことであり、高齢者などの住民が自家用車に過度に頼ることなく公共交通により、医療・福祉施設や商業施設等にアクセスできるなど、日常生活に必要なサービスや行政サービスが住まいなどの身近に存在するまちのことである。
しかし、なぜ多極ネットワーク型コンパクトシティと呼ぶかというと、これまでのコンパクトシティ論は誤解されてきたという認識による(※1)。その最たるものが、市町村内の、最も主要な拠点である大きなターミナル駅周辺等の1カ所に、全てを集約させるという一極集中論である。そうではなく、多極ネットワーク型コンパクトシティは中心的な拠点だけではなく、周辺の生活拠点も含めた、多極ネットワーク型のコンパクト化を目指すものである。
したがって、全ての人口の集約を図るものではなく、 たとえば農業従事者が農村部に居住することは当然であり、農村部でも集約で一定エリアの人口密度を維持するが、全ての居住者を市町村の主要な1カ所に集約させることを目指すものではない。
コンパクト化にはマスタープランが不可欠だが、我が国では総合的、横断的なマスタープランが作れないし、作っても機能しないといった現実があった(※2)。その理由は、都市の根本についてのコンセンサスがない上に、最大の問題である土地政策に手がつけられなかったからである。また、役所やアカデミズムなどに縦割り型の社会構造が強固に存在し、これらを横断する計画が成立しなかったからである。
しかし、高度なマスタープランによるコンパクトシティづくりは一刻の猶予も許されない。本年をその取組元年にすることが期待されている。
(※1)国土交通省(2014)『改正都市再生特別措置法等について』平成26年9月1日時点版
(※2)簑原敬他(2014)『白熱講義これからの日本に都市計画は必要ですか』学芸出版社