Column

経済学部教員コラム vol.73

経済学部教員コラム vol.73

布能 英一郎

大学を入学することを考えている方々へ

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大学への入学動機、大学に入学して何をしたいかは、人によってさまざまであり、それに関して大学側から「こうであるべき」と言うことはない。他方、大学制度の歴史上のことを知っておくと、大学、学部への入学に参考となる事項も多々ある。以下に書き記してみた。

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1. 現行の大学制度には、2つのルーツがあり、これらが合体した。

日本の大学は、約140年前に誕生したものであるが、第二次世界大戦直後に大きく変わった。第二次世界大戦前の学校制度は、大まかに言えば、次のようであった。

(旧制)高等学校:3年制で、外国語教育、教養教育、更に若干の専門基礎教育を行った。外国語教育の比重が高く、第二外国語を含めて半分程度の時間を外国語教育に費やした。

(旧制)大学:3年制で、専門教育のみ。講義があまりなく、演習、ゼミナール、卒業研究、卒業論文作成が主。

第二次世界大戦終戦により、学校制度は変更となり、1949年以降「新制大学」となった。新制大学は旧制高校と旧制大学が合併して誕生したところもあったし、旧制高校が新制大学に昇格したところもあった。さて、旧制高校と旧制大学が合併して誕生した新制大学では、旧制高校側が大学1,2年の教育(教養課程)を、旧制大学側が大学3,4年の教育(専門課程)を担当したという。だが1980年代以降、文部省(現 文部科学省)は大学カリキュラムの大綱化を認め、徐々に第二外国語や教養教育に関する規制を緩めた。そして、1990年代に大学カリキュラムは、ほぼ自由化された。

それでも、新制大学誕生経緯の影響は、今でも履修体系に残っている

たとえば、外国語。1970年代までは第二外国語も必修だった。今でも第二外国語を必修とするところがある。参考までに戦前、旧制高校が外国語を重視したのには理由がある。日本語で書いた専門書がほとんどなく、専門教育を受けるには外国語の書籍から学ぶしかなかったから。更に第二次世界大戦以前は、英語よりドイツ語、フランス語で書かれた専門書の方が主流だった。英語の専門書が充実してきたのは、第二次世界大戦以降。現在でも関東学院大学経済学部は、英語必修を継続している。

体育(健康スポーツ)必修。

総合科目(以前は「一般教養科目」という名前)が選択必修。経済学部であっても、哲学、心理学、自然科学等の科目を選択ではあるものの履修しなければ卒業できない。

いずれも、旧制高校での授業科目を引き継いだ事項である。

上記のことから、「英語がまるで駄目。英語を勉強する気は全く起きない」という方は、大学入学以降、卒業を目指すなら障害が生じかねないことを認識しておくこと。

なお、身体障碍がある場合、健康スポーツが必修なので卒業に支障が生じないかと心配するのは杞憂でしかない。身体障碍者(生まれつきの障碍でなくても、入学直後、交通事故で骨折した学生等)には「運動処方クラス」が用意されており、こちらを履修すればよい。

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2. University(総合大学) とは、College(学部)の「集合体(寄せ集め)」

組織の上では、「大学」の下に各「学部」があるが、歴史的には、逆である。

東京大学は明治10年に日本初の大学として発足したが、発足当時、法科大学、理科大学、文科大学、医科大学(現在の法学部、理学部、文学部、医学部)の4つの単科大学から構成されていた。このため、各単科大学ごとに学長がいた。それゆえ、「東京大学」という「4つの単科大学をまとめた組織」を代表する人物のことを「総長」と称した。この名前が現在でも引き継がれている。その結果、大学の「長」を「学長」と称しているところもあるし、「総長」と言っているところがある、という次第。

別の例として、Collegeの意味が必ずしも日本における「学部」を意味するものでないものの、英国の大学制度で見ることができる。

英国観光ガイドブックに書いて記事:「オックスフォードは、こじんまりした大学町。市内には約37のカレッジがある。マートンカレッジ(現天皇が皇太子時代に留学し、博士号取得)やベリリオルカレッジ(雅子様が外務省勤務時代に研修で留学)は、中世からのいかめしい建物ときれいに整備がゆきとどいた芝生が美しい。しかし、オックスフォード大学という校門や看板はどこにも見当たらない。それもそのはず。オックスフォード大学とは、組織として存在するのみ。President(学長、事務組織上の代表者という意味での学長) と、それに付随する事務室があるのみだから。」

つまり、Universityとは、Collegeの「集合体(寄せ集め)」。「大学(University)が先にあって、その下に学部(College)がある」と思いがちだが、歴史的には、全く逆。

日本の場合、新制大学発足当時には、大学入学時点で「(旧制)高校と同じ制度で教育するのがよい」との風潮があったが、今でもこれを存続させているのは東京大学くらい。1980年代以降の大学カリキュラム大綱化、自由化により、最初から学部別のカリキュラムになっている。よって、同じ大学でも「学部」による違いのほうが大きく、「学部が違えば、別の学校」と思うほうがよい。

このようなことから、志望校は大学名で選ぶよりも、学部で選ぶようにした方が良い

例外的に、経済学部、経営学部、商学部間では、一部授業の「相互乗り入れ」をしているが、キャンパスが別だと、相互乗り入れは、物理的理由で極めて困難となっている。関東学院大学経営学部は、2017年4月に経済学部経営学科が学部として分離独立して設置されたので、その後も経済学部と経営学部の相互科目履修が多少は可能としていたが、2023年4月以降、経営学部が関内移転、経済学部が六浦キャンパスと場所が別々となるため、学部相互間の科目履修を全くといってよいほど想定しない履修体系に移行せざるを得ない。

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3. 大学で学ぶのは知識の取得か、それとも、新たな知の探究か?

これについては、現在でも大学教員間で意見が分かれるところであるが、新制大学を旧制高校の延長と思えば「知識の取得」であり、旧制大学の精神を受け継ぐと考えれば、「新たな知の探究の場」となる。「知識の取得」を更に推し進めると資格取得の場となり、「新たな知の探究」を突き進めば「研究の最先端を行うところ」となる。医療系学部、教員養成系学部等では「資格取得」に傾きやすく、理学部、人文科学系学部ではどちらかといえば「新たな知の探究」となる。学部選択の際、こうした視点での検討をした方が良いであろう。

このように、大学制度の歴史上のことから生じた事項が現在でも残っており、このことを事前に知った上で志願したほうが良いと思った次第。参考になれば幸いである。