経済学部教員コラム vol.28
「神奈川から地域資料を考える」
台風12号が橫浜にも蒸し暑さを運んだ8月2日、本学の関内メディアセンターにおいて神奈川資料ネット主催シンポジウム「地域の人びとをささえる資料─文字資料から自然史資料まで─」が開催されました。私は、主催団体の運営委員の一人としてその準備にかかわり、また討論の司会も務めましたが、この日の報告や討論は期待以上の大変刺激的なものとなりました。
東日本大震災を経験した私たちは、大災害が人の命のみならず、長く受け継がれてきた地域社会をも存亡の危機にさらすことを目の当たりにしました。その危機には、防災対策や減災対策がどうであったかだけではなく、被災地域の復興を左右する地域コミュニティや人びとのつながりがどう保たれてきたかといった問題が関係しています。地域社会に生きる私たちが、予測の難しい様々な困難に打ち勝ち、持続・発展する社会を築くためには、文系と理系の壁、専門家と市民の溝、様々な組織や団体の垣根を越えた連携と、日常的な人びとのつながりを、地域に根ざしてつくりあげていかねばなりません。そして地域資料には、これらをつなぐ大きな力があることも、私たちは東日本大震災によって気づかされたのです。
では地域資料とは何か。この難しい問いを、神奈川を舞台に正面から取り上げたのが本シンポジウムです。報告者は、歴史学や自然科学の専門家、地域資料を調査・研究する市民の会の方など、多様でした。また、本学をはじめ、神奈川県内の大学や各種団体からも後援を頂きました。まさに、地域資料をテーマに、様々な立場の人や組織がつながったのです。しかも、そこで提起された地域資料の可能性は無限大でした。地域資料は「地域」の存在、「人びと」の存在を示し支えるものであると同時に、それが様々な分野や立場の人たちによって発見され、読まれ、活用されることによって、現在と過去、人と人とを新たに結びつけるものであることが、報告と討論の中で具体的に示されました。いつも資料と向き合う歴史研究者の一人として、資料とは何かをあらためて考えさせられた一日でした。