経済学部教員コラム vol.4
「経営史って何だ?」
皆さんは経営史という学問分野をご存知でしょうか。わかりやすく言えば、企業経営の歴史を探求する学問です。歴史と聞くと、暗記がつらくて面白みがないという声を聴きます。受験生の時に苦労した思い出がよみがえるのかもしれません。そんなこともあって歴史離れがいわれて久しい昨今です。
でも、人は自分の経験を糧に成長していくものです。経験=歴史という見方もできます。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉にみられるように、個人の経験はとるに足りないものかもしれませんが、人類の経験の積み重ねが歴史だとすれば、それに学んだ方がずっと意味のあるものになるはずです。
企業経営が直面するさまざまな今日的課題を理解しようとすれば、どうしてもその企業の成り立ちや創業者の思いを避けて通ることはできません。たとえば、東日本大震災で東北地方が大きな被害に見舞われたとき、トヨタ自動車の豊田章男社長は東北に新工場を建設し、地域の雇用を守り、税金を納めるという趣旨の発言をされました。また、被災地で物流が困難な状況にあったとき、ヤマト運輸の従業員は自らの判断で地域の物流網を復活させていきました。そして、宅急便1個につき10円を復興資金に充てることを決め、すでにその資金が地域の産業振興に活用されています。
これらの企業の行動に共通するのは、その事業を創造した企業家の思いが現在もその企業に受け継がれているということです。トヨタ自動車の創業理念には産業報国=国家への貢献が謳われています。また、ヤマト運輸が経営不振に喘いでいたとき、宅急便事業を開発した小倉昌男氏は、個人間の物流というビジネスとして成立しえないと思われていた事業に乗り出し、見事に成功させました。それは、当時の国鉄、郵便局による法人主体の物流のもとで、個人間の物流がないがしろにされ、生活に不便をきたしていたからです。人々の生活をより便利に豊かにするために創造された宅配便ビジネスは、いままさに被災地に元気を届けているのです。
そのような事業の成り立ちや企業家の思いを知ることは、今を生きることとつながります。そして、将来にも大きな道しるべとなるものです。「世の人々の楽しみと幸福のために」という考えで企業を経営したブリヂストンの創業者石橋正二郎氏の思いは、企業経営において基軸におかれるべきものでしょう。歴史には多くの宝が眠っているのです。みんなで宝探しに出てはいかがでしょう。
(経営学科 四宮 正親)