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経済学部教員コラム vol.95

経済学部教員コラム vol.95

黒川 洋行

ドイツの労働時間貯蓄制度とは

2023年の日本の名目GDPがドイツに追い抜かれて第4位になる見通しである旨のニュースが,昨年10月に報じられました。しかし,ドイツでは労働時間が多いわけではありません。OECDの統計によれば,2022年の日本の年間総労働時間が1607時間である一方,ドイツでは1341時間となっており,約260時間も少ないのです。

これに関連して,ドイツには,労働時間貯蓄制度と呼ばれるものがあります。労働時間貯蓄制度とは,労働契約上の労働時間と実労働時間の差が生じた場合(すなわち,残業や休日出勤など),その時間数を,あたかも銀行預金のように勤務先の口座に積み立てて,後日その人が休暇等に振り替えて利用できる仕組みのことです(ドイツ語では,Überstunden abfeiern と言います)。これは,個々の企業の雇用契約等で規定される制度ですが,いわば,「残業時間のポイント還元システム」のようなものであり,ドイツでは広く普及しています。例えば,残業時間8時間分を口座に貯蓄すれば,後日,1日分の休暇を取得することができるというものです。これには,会社側にとっても,残業代を支払わずに済み,会社の忙しさに応じた投入労働力の調整を,従業員数ではなく労働時間の調整で行えるというメリットがあります。

こうした働き方の背景には,ドイツに特徴的な「社会的市場経済」という経済理念があります(2013年8月5日の教員コラム Vol.3 で詳しく紹介しています。ご興味のある方は,そちらもあわせてご覧ください。)