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経済学部教員コラム vol.22

経済学部教員コラム vol.22

鴨野 洋一郎

「フィレンツェの商人たち」

はじめまして、「経済史」を担当している鴨野です。私は14世紀から16世紀にかけてフィレンツェの商人が行った商業活動について研究しています。この時期のフィレンツェはルネサンスが花開いたことで有名ですが、これを経済的に支えていたのがフィレンツェ商人でした。彼らは小さいころから学校でラテン語や算術を学び、またときには大人に連れられて旅行し実際の商売を見て学びました。そしてある程度の経験を積むと何人かで資金を出し合って「コンパニーア」という会社をつくり、豊富な商品をヨーロッパや地中海の各地で購入・販売したり、多様な種類の布をつくったりして精力的に活動しました。

こうした活動を効率よく行うため、フィレンツェ商人は様々な「商業技術」ともいうべき技術を駆使しました。例えば、フィレンツェから遠く離れた都市に駐在員を置いて現地での取引を任せる、駐在員と商業書簡を通じて意思の疎通をはかる、為替手形を使って安全に送金する、海難事故に備えて海上保険に入る、といった技術です。さらにフィレンツェ商人は、あらゆる商業活動に関する詳細を専用の帳面や帳簿に記録しました。彼らが帳簿に記録する際に使っていた複式簿記は、今日の会社が採用している複式簿記のルーツとなっています。

フィレンツェ商人の記録の一部は今日まで残っており、現在はフィレンツェ内外の古文書館に保管されています。私はルネサンスを支える富を生み出したフィレンツェ商人が実際にどのような活動を行っていたのかに興味を持ち、イタリア留学中に古文書館で調べた記録を基にこれまで研究を進めてきました。とくに私が関心を抱いたのは、言葉も宗教も習慣もまったく異なる人々を相手にフィレンツェ商人がどのように取引していたのか、という問題です。そうした取引の一例として、フィレンツェ商人がイスラーム世界のオスマン帝国と行った貿易に着目し、その貿易に携わった会社や商人の記録を調べてきました。まだまだ調べなければならない史料はたくさんありますが、一つ一つの史料を丁寧に読み解き、この貿易の全貌を明らかにしたいと考えています。

フィレンツェのドゥオーモから

(経済学科 鴨野 洋一郎)