経済学部教員コラム vol.93
読書:「はじめに」と「あとがき」
読もうとしている本が、「はじめに」「本文」「あとがき」で構成されている場合、多くの人はまず「はじめに」を読むだろう。そして次に「本文」を読み、最後に「あとがき」を読む。あるいは「はじめに」を読んだ後に、「あとがき」を読むかもしれない。この読み方は順当な読み方であろう。しかし私は、「はじめに」と「あとがき」にもっとこだわって読むことを勧めたい。
「はじめに」は本の導入部分であり、そして著者の問題意識を開示する場であり、著者の主張を読者に俯瞰的に示す場でもある。このように書くと「はじめに」の執筆は簡単なように聞こえるが、執筆してみると、「はじめに」を書くことはなかなかに難しい。実際多くの人は「はじめに」を最後に書いていると思う。それは全体の執筆作業を終えてからしか、中身のある「はじめに」を書くことができないからである。
それでは「あとがき」はどうだろうか。あとがきは私たちに何を提供してくれるのだろうか。あとがきの構成要件は、短文・平易・エッセンス・自らを語るの4つであろう。この中で「自らを語る」ことは本人にとってだけでなく、読者にとっても興味深い。そこに執筆者の人間性とテーマとの格闘を見ることができる。そしてあとがきでは次なるテーマとの関連が示される。ややもすると本文にのみ注目しがちな読書であるが、「はじめに」と「あとがき」はもっと注目され、大切にされてよいはずである。そのことが執筆者の水準を一層引き上げることに繋がるであろう。