経済学会主催講演会(2023年11月17日開催)「サステナブルにファッションを楽しむ フェアトレード&オーガニックの取り組み」
講師 フェアトレードカンパニー株式会社 広報・啓発担当 鈴木 啓美
フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」を運営するフェアトレードカンパニー株式会社より広報・啓発担当の鈴木啓美さんを招き、同社が環境保護と途上国支援のためにファッションブランドとして取り組んできたことについて話していただいた。英国から来日したサフィア・ミニーとジェームズ・ミニーが共同で1991年に創設したNGOグローバル・ヴィレッジがその母体となっている。できる限りオーガニックな天然素材を使い、途上国の人々による手仕事の素晴らしさを活かし、環境にやさしい持続可能なものづくりを行ってきた。人や地球環境、社会、地域に配慮したエシカル商品を通じて、日々の暮らしの中で、みんなが幸せになれる選択肢を提供している。ピープルツリー自由が丘店、自社のオンラインショップ、そして約500軒の国内卸先店舗にて販売している。
当日、聴講したのは貿易の仕組みをまだ学習していない経済学部の1年生が多く、チョコレートやコーヒーなどで「フェアトレード」という言葉を眼にしたことはあるが、そもそもファッションのどこにフェアでない問題があるのかまでは知らない。そのような学生にとって「毎年、日本では40億枚の衣料品が作られ、そのうち10億枚がタグをつけたまま廃棄されていることをご存知ですか」という鈴木さんの問いかけは驚きだった。原材料費と人件費を不当に安く抑え大量に生産することで1枚あたりの生産コストを減らし、先進国の消費者に低価格な衣料品を提供するファストファッションは、途上国の環境と人々の基本的人権を脅かしている。綿花を大量生産するために大量の水を消費したために干上がった湖、広大な綿畑に撒かれる先進国産の高額な化学肥料によってもたらされた土壌汚染と農家の破産、学校にも通えず殺虫剤まみれの綿を素手で摘む子どもが苦しむ健康被害、先進国のブランドの求めに応じて短期で大量の納品をせざるを得ない縫製工場での長時間労働と低賃金など、ファッション業界の抱える問題は大きい。
次々に提示される画像で問題を認識した学生に、鈴木さんは「フェア」の意味を問い、途上国と先進国の現状をフェンス越しに観戦する3人の人物の絵を用いて答えらえた。フェアトレードの活動は、全員に均一に支援する「平等」ではなく、誰もが同じ結果を得られるように必要の度合いに応じて「公平」にサポートをすることで、そうした活動を続けた結果、サポートをしなくても全員が楽しめる「公正」な世界を目指している。
「公正」な世界の実現を目指さなければならない。でも単なる大学生に何ができるのか。途上国に行ったこともなければ、多くの人を支援できるような資金もない。学生たちが問題の大きさに圧倒されて諦めかけたとき、鈴木さんは「買い物は投票と同じ」と呼びかける。つまり、原材料の生産から製造過程まで環境に負荷をかけず労働者人権も守っている商品を購入することが、公平な取り組みを実践する企業を支持しフェアトレード活動を持続可能にするというわけである。衣料品を購入する際は値段だけでなく、タグにGOTS認証(Global Organic Textile Standard)や国際フェアトレード認証ラベルなどがあるか確認してほしい。
講演後に回収したアンケートに興味深いコメントがあった。「フェアトレード商品を高額と感じる今の日本はフェアな社会じゃない」ファストファッションには問題があると知りつつも、わずかなバイト料でおしゃれを楽しむにはどうしてもそちらへ手が伸びてしまう。でもフェアトレード商品も含めて全商品が同じ適正な価格帯におさまり、それを高額と感じない程度の給料を得られれば、自分たちの買い物のせいで、知らない所で誰かを苦しめているかもしれないと罪悪感を持たなくてもすむ。そんな公正な社会が実現すれば、途上国だけでなく日本に暮らす私たちも幸せと気づいたようだ。
ピープルツリーのフェアトレードについて詳しくはこちら。